【良いことばかりではない】クライアントバランシング機能の弊害について

Seiryu
Meraki Employee

 

 

クライアントバランシング機能の概要と注意点

クライアントバランシング機能は、ネットワーク内の負荷分散や効率的なローミングを実現するために設計された機能で、大きく以下の2種類に分類されます。

 

  1. パッシブステアリングは、AP間で共有したRSSI情報を基に、アソシエーション要求を拒否することでクライアントをより適切なAPに誘導する仕組みです。
  2. アクティブステアリングは、BSS-TMフレームを使用してクライアントに別のAPへのローミングを提案する仕組みで、クライアントの判断に依存します。

 

 


パッシブステアリングの仕組み

 

MR29より前のファームウェアでは、パッシブステアリングが主に以下の仕組みに基づいて動作します。

  1. RSSIの測定と共有:

    • クライアント情報の共有:MR同士がUDPポート61111を使用してクライアント情報を共有し、最適なAP情報を生成します。近くのクライアントから送信される管理トラフィック(ビーコンフレームやプローブリクエスト)の**RSSI(受信信号強度指標)**をMRが測定します。

    • 測定されたRSSI値は、AP同士が情報共有し、ネットワーク全体でクライアントの状態を把握します。
    • Meraki RSSIの測定値は、ノイズフロア(周囲の無線干渉)とクライアントの信号強度を組み合わせて算出されます。
  2. 接続制御の動作:

    • パッシブステアリングは、クライアントからのアソシエーション要求を拒否することで、クライアントをより適切なAPに誘導します。
    • 2回拒否した後、3回目に接続を許可します。
    • 具体的には、AP間で共有された情報をもとに、RSSI値が低い(接続品質が悪い)APへの接続を試みた場合、APがアソシエーション要求を複数回拒否することで、クライアントがより適切なAPを選択するように誘導します。 

 

クライアントバランシング機能によって、接続拒否 (Association Reject) が発生すると、ダッシュボード上では接続失敗のログとしてerror_code='17'として記録されます。

例: Error Getting In Event Logs

・auth_mode='wpa2-802.1x' 11k='1' 11v='1' error_code='17' radio='1' vap='6' channel='44' rssi='38'
・802.11 802.11 association rejected for client balancing load: 20, best_ap: 172.16.113.3, best_ap_load: 10, best_ap_rssi: 44

 

 

この仕組みは、AP間で共有されたRSSI情報を活用して、クライアントが最適なAPに接続するように誘導を行いますが、最終的な決定はクライアント側の選択に依存します。

 


アクティブステアリングの仕組み

一方で、MR29.x以降のファームウェアではパッシブステアリングとともに、アクティブステアリングが802.11vに基づいて動作します。以下にその主な仕組みを説明します。

 

  1. BSS-TMフレームを使用したローミング提案:

    • MRは、BSS-TM(Basic Service Set Transition Management)フレームを使用して、クライアントにネットワーク状態がより良好な別のAPへのローミングを提案します。
    • この提案に基づき、クライアントが最適なAPにローミングするよう促します。
    • 最適なAPの割り出しにはクライアント情報の共有で入手した最適なAP情報に基づきます。
  2. クライアントの判断:

    • 提案されたローミングを実行するかどうかは、クライアント側の判断に依存します。

カバレッジが広範囲で重なっている無線環境では、このアクティブステアリングによってローミングが頻繁にローミングが発生します。

 


アクティブステアリングの副作用と注意点

アクティブステアリングは便利な機能ですが、副作用もあるため注意が必要です。

主な副作用

  1. ローミング失敗の増加:
    • ローミングの回数が増えることで、失敗する回数も傾向として増加します。
  2. たらい回し現象:
    • ローミング直後に別のAPへのローミングを再度促されることで、クライアントがたらい回しにされることがあります。

これらの副作用により、クライアントの接続が安定しない場合があります。

 


機能無効化による回避策

クライアントバランシングによる影響を回避したい場合は、以下の手順で機能を無効化することが可能です:

  1. Meraki ダッシュボードで「ワイヤレス」>「RFプロファイル」のページを開きます。
  2. APに適応しているRFプロファイルの編集画面を開きます。
  3. クライアントバランシング機能をOFFに設定します。
  4. その後、問題が改善するか確認してください。

 

クライアントバランシング機能を無効化する際の懸念点としてクライアントが特定のAPに集中することが挙げられますが、クライアント集中や接続不安定といった問題に対しては、無線電波の調整が最適なアプローチであり、サイトサーベイを行いカバレッジや外来波を確認した上でAPの設置位置を決定することを推奨しております。

 

また、MRが許容可能なクライアント数はモデルや用途によりますがおおよそ25台~30台程度であり、この範囲であれば十分快適に通信が行える認識であるため、クライアントバランシングをONにする必要はありません。

この台数を大幅に超えてしまう場合にのみ利用することを推奨しております。

無線環境の不安定時の切り分け方法 - The Meraki Community

 

RFプロファイルを別途作成し適応することで、特定のAPのみクライアントバランシングONにすることも可能でありますので、無線環境に合わせてご検討をください。

 


追加情報と参考資料

クライアントバランシングや802.11vに関する詳細は、以下の資料をご参照ください:


まとめ

クライアントバランシング機能は、適切な無線環境下であれば、クライアントの接続先を誘導し平準化することが可能となりますが、適切でない無線環境下にて有効となっている場合、必要のないローミングや切断に発生につながってしまうことがあります。

 

クライアントバランシング機能は文字だけ見ると便利な機能のように考えてしまいますが、上記のような副作用があることを認識していただき、もしも問題が生じた場合はクライアントバランシング機能を無効化したり、無線環境を最適化したりすることで改善を図っていただけますと幸いです。